ピオーネのこと
2016.07.29|くだもの案内人
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![pione01](http://www.osakafu-chuouichiba.com/wp/wp-content/uploads/2016/07/pione01.jpg)
葡萄に限ったことではないのですが、
日本で栽培される果実の多くはハウス内で栽培されることが多い。
そうすることで本来の旬よりも早くに収穫が出来るというメリットがあるのです。
例えば、葡萄の本来の旬は8月の下旬から9月になります。
でも、ハウス栽培の葡萄は品種にもよりますが、
早ければ4月くらいから収穫が始まります。
その頃ってまだ桜の花が残っていたりする時期です。
早いですね。
ハウス栽培のメリットは収穫の時期を早めるだけではありません。
葡萄は栽培するために技術がとても必要な果実です。
日々変化する天候に対して、迫り来る病害虫に対して、
的確に管理して美味しい葡萄を作るためには
ハウスという隔離された環境がとても有効になります。
また技術という意味では、日本は世界に誇れる栽培技術を生み出しました。
それは葡萄の種を無くす技術です。
葡萄は果実ですから、実がなればその中心に種が出来ます。
当たり前のことです。
ところが、僕達が食べる葡萄には種が無いものが一般的になってきました。
この葡萄の種を無くすための技術は、
ジベレリンをはじめとする植物ホルモンを使用します。
昭和30年頃にデラウェアで実用化され、
現在では巨峰やピオーネといった大粒の葡萄にもその技術が広がっています。
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10年前の2006年、僕はフルーツカフェを大阪のビジネス街にオープンしました。
お店のコンセプトは「店内でフルーツを味わうことが出来ること」なのですが、
フルーツパーラーとは一線を画しました。
ランチタイムにフルーツを食べるということを前面に押し出して、
フルーツキーマカレーやフルーツ散らし寿司といった「えっ!美味しいの?」と
質問を受けてしまいそうなメニューを提供していました。
自分で言うのもなんですが、そこそこの評価を受けていました。
けっこう美味しかったんですよ。
ただそうしたメニューは、商売上必要だから用意していただけで、
本当に僕がやりたかったことではありませんでした。
僕がやりたかったことは、厳選したフルーツをお客様に食べてもらって
「美味しい」と言ってもらえること。
当時、ランチメニューの付け合せには必ずフルーツを用意していました。
甘い苺を用意したり、時にはマスクメロンの小さなカットを用意したり、
サブキャラ的な位置づけの付け合せではありましたが、
僕は全力で取りかかっていました。
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ある時、卸売市場でとても立派な岡山産の種無しのピオーネを買い付けました。
大きな粒に黒々とした色と艶、口に含んでみると甘い果汁がいっぱいに溢れ出して
とっても幸せな気持ちになります。
もちろん種無しで「匠の仕事」と呼びたくなるような
素晴らしい出来栄えのピオーネでした。
早速購入して喜び勇んで店に帰ると、
その日のランチメニューの付け合わせとして提供を始めました。
その日も盛況でした。多くのお客様が来店されて、
当店の人気メニューであるフルーツキーマカレーを注文されていきました。
僕は次々と厨房にオーダーを通しては、スタッフの女の子と一緒に
お客様のテーブルに水をお出しして、スプーンとフォークを提供して、
注文されたランチメニューを並べていきました。
そんなお皿のひとつには大きなピオーネが3つも盛られた小鉢が
用意されていています。
僕は心の中でウキウキとしながら「食べて驚くなよ」と、
ニンマリとしながらお客様の前にその小鉢を並べました。
戦争のようなランチタイムが終わりました。
食事を終えられたお客様がお会計をされて帰っていかれます。
この会計のときにお客様からの何気ない一言に僕は大いに感動をしました。
「美味しかったです。ありがとう」
そんな一言に、当たり前の一言に僕は涙の出る思いでした。
それまでの僕は中央卸売市場でセリ人の仕事をしていました。
扱っている商品は同じ果実なんですが、仕事上では僕にとっては商売の材料でした。
一流の果実から三流の果実まで全ては数値化され、
相場の変動に一喜一憂し、お客様との駆け引きを毎日繰り返していました。
ところが、お店で提供する果実には僕の思いを込めています。
その思いに、お客様が気づいてくれて、感謝の言葉をもらった。
素直に嬉しかったです。
お店をオープンして良かったなと感じることができた瞬間でした。